瀬野なつき


朝。
カーテンの隙間からこぼれる光で、いつもより早く目が覚めた。
ロノウェを呼んで、目覚めの紅茶でも一杯飲もうかと思ったその時。
「戦人ァあああああああああああああああああ!!!」
いきなり響き渡る怒声に戦人は恐怖を抱く。

めきょり。
めきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめき
がたん。

「………え?え、ちょ、まままま………え?ちょ………人の部屋のドア壊すなよ……………?」

戦人が驚くのもわけはない。
何故なら、さっきの怒声の主――――ベアトリーチェがドアを破壊して部屋に入り、物凄い形相でこちらに向かってくるのだ。

「え、いやちょ、タンマタンマっ!!え、いやうんその」

戦人は両手を前に突き出し全力で抵抗しようとする。

が。

ベアトリーチェは顔色一つ変えずこちらにずんずんと向かってくる。

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」

戦人が叫ぶと、ベアトリーチェはピタリと止まった。そして

「戦人。お前はまた罪を犯し、それを忘れるんだな。」

と、小さな声で呟いた。

「ベアト……………」

「あーもーお前ムカつく!!!何故また罪を犯す!!!!何故忘れる!!!そなたはまた無能と呼ばれたいのかこのドM!!!変態!!!思い出すまで魔法で酷い目に遭わせてやる!!」

「あぁ…?何も思いつく節はないんだが………」

ピシッ。

「ここまで言って思い出さないのなら、かけてやるよ………魔法。思い出すまで解けない、とけるまで酷い目に遭い続ける最悪の魔法をなァ……?」

「え………?」

ベアトは戦人の頭上に手をかざす。

「えっいやえっえっえっいやいやいやいやいや嘘だろうわやめ」

そうして深く息を吸い込み、何かの言葉を喋りだす。

「……は……も………き……。そ……を………す…………い……と………け………。ほあたっ☆」

ぼんっ、という音と共に煙がもくもくと出て、辺りはその煙しか見えなくなった。

「げほっ、げほ………ん、何だ……?」

あたりが徐々に見えるようになっていく。

そうして。

「戦人。己の姿を見てみよ。」

「え…ああ。………………!!!」

戦人が絶句する。
何故なら………………

「なんでおれちいさくなってるんだー!!!」


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「あらあら…。これはベアトの魔法ですね。戦人くん、どうしましたか?」
「あさおきたら、ベアトがドアはかいしておれのへやにはいってきて、へんなこといって、へんなまほうかけたんだ!!!そしたらからだがちいさくなって………あと『ほあたっ☆』っていうのはきっと某国擬人化漫画よんでいないとわからないぞ……」

可愛くて高級そうなお菓子といい香りの漂う紅茶を囲みながら、戦人はワルギリアにさっきまでのことを話していた。

「なあ、ワルギリア。あいつ、なんであんなにおこってるんだ?」
「私が今戦人くんに答えを教えてしまったら、せっかくベアトがかけた魔法の意味がないじゃないですか。それに、悪いのは戦人くんだと思いますよ。」
「ええええワルギリアまで俺が悪いって言うのかよー。まあ、そうなんだろうけどさ。でもベアトは何がしたいんだ…?」
「もう一度、昨日やるべきだった事を思い出してみてはどうでしょう。」
「へ?」

………ワルギリアの言うことなのだから、きっとそうするのが一番なのだろう。
でも、やるべきだったことって…?部屋の掃除か……?

そんなことを考えながら紅茶を飲もうとすると、いきなりガシャーン!と大きな音がした。

「うわっ!!なんだ!?カップがいきなりわれ……っ」
「ベアトの魔法のせいですね。大丈夫ですか?戦人くん。」
「あ…、ああっ。おれはだいじょうぶだ。でもふくがべたべたになったぞ…。」


:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*

「あーもーわけわからないからたまったすいりしょうせつよんでやる!!」

戦人は、どれくらい本が溜まっているのか確かめるため、床に散らばっている本を積み重ねて山にしてみた。

「うわあ…こんなによんでいないほんがあったのか……みあげないといちばんうえがみえないほどにやまづみになってるぜ……」

戦人は本の塔のまわりをぐるぐるまわってみた。
ぐるぐるぐるぐる。
そんなことをしているうちに、

「ふぎゃっ」

ばさばさばさばさばさばさばさばさばさっ。

「うう…ほんにあしぶつけちゃったぜ……いてて」

戦人は、本の塔の残骸に踏み潰された。




いつもなら。


いつもなら、こんな本すぐ除けることができるのに。


本の山の中なんかに閉じ込められずに済んだのに。




ベアトがいたら、こんなことになっても笑っていられたのかな。


一人で寂しく本の山の中にいるのは、辛い。

けっこうキツいな、ここにいるのは。





ベアトが一緒だったら、どんなに救われただろうか………






そういえば最近、ベアトと一緒に何かすることって無いな。


俺が部屋に閉じこもっている間、ベアトも同じような気持ちだったんだろうか。



寂しい。


悲しい。



もう、一人にしないで。


…あ。

そうだった。約束、していた。


昨日は、仕事がなんとかなりそうだから一緒にすごそう、って。



馬鹿だった。


そんな些細な約束でも、大きな意味があったんだ。


ごめん。



ごめん………


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「戦人くん、起きましたか?」

目を開けると、ワルギリアとベアトがいた。

眠ってしまったんだろう。

いたた……手に擦り傷ができて……手……あれ………?

「……元に戻ってる……………」

戦人の体は、何もなかったかのように元に戻っていた。

「戦人………済まなかった、こんなことをして。」

ベアトが申し訳なさそうな顔で言う。


「いや、俺が悪かった。明日は一緒にティーパーティーしよう。そして推理小説よんで、どっちが一番解けたか競争したり。」
「くっくっく……それはいい案だ。もう絶対忘れないよなァ…?」
「忘れないって!!信じろよ!!!」

くす。

きっともう、忘れない。

いや、絶対忘れない。



「あ、あとショタ戦人写真集作ったぞ!!」
「は?」

ベアトが満面の笑みで喋り始める。

「いや、戦人が可愛すぎてとりあえず富t……通りすがりのカメラマン召喚して後ろからつけていって写真とっていたんだ!!どうだァ?可愛いだろォ!?ホラホラホラぁ!!」

ぶちっ。


「ベアトお前えええええええええええええええ!!!!!!明日のことも忘れてやるよおおおおおおおおおおおお!!!うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

「えええっ何でだよ、可愛いじゃねえかよ!!!」


*END*
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